前編のあらすじを少しだけ。写真に自分だけの特徴がほしくて渓流の水中撮影を思い立ち、防水コンパクトの TG-7 を Rentio でレンタルして、透明度の高い大分・藤河内渓谷へ向かいました。ただ「水の中はきれいだけど、主役がいない」——そんな不安を抱えたままの出発です。頭の中では涼しげに構えていた自分が、このあとどう裏切られたか。後編は、その話です。
膝まで入ると、そこは別世界だった
まず、良かったことから。膝まで川に入った瞬間の水の冷たさは、正直に言って最高でした。真夏の渓谷で、下半身だけが別世界。ひんやりした水が脚を包んで、それだけで来た甲斐があったと思えるくらい気持ちよかったです。
それに、水に入れると行動範囲が一気に広がります。岸からは近づけなかった場所も、川を渡ってしまえば立てる。ずっと「あの位置から撮りたいな」と思っていた場所に、自分の足で立てたのは素直にうれしかったです。……ここまでは、本当に良かったんです。
OM SYSTEM OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
40mm|F13|1.3秒|ISO200
問題は、足元だった
膝まで入るのは事前に想定していたので、スニーカーやトレッキングシューズはやめて、水場用に KEEN の NEWPORT H2 というサンダルを新しく買っていきました。街履きや普通の水辺では評判のいい、水陸両用の定番モデルです。
ところが、藤河内渓谷の苔むした岩の上では、これがびっくりするくらい滑りました。油断した瞬間に足を取られて、背中から地面に打ちつけて転倒。「点」でぶつけたというより、背中全体を「面」で打ちつけた——そんな鈍い衝撃で、しばらく動けないくらい痛かったです。頭を打ったり足をひねったりせずに済んだうえ、手にしていたカメラやレンズも、傷ついたり歪んだり割れたりせずに無事だった——これは本当に運が良かったと思います。幸い、あざにもならずに済みました。
そこからは慎重に、一歩ずつ足場を確かめながら川の中を進みました。それでも一度、水の中でまた足を滑らせてこけそうになりました。危うく全身が水に浸かるところを、なんとか踏ん張って、腰から下が濡れるくらいで食い止めた——それがやっとでした。水中は足元が不安定で、体を支えるのが想像以上に難しいと痛感しました。
誤解のないように書いておくと、NEWPORT H2 そのものは、普段履きや砂利の水辺では快適で、選んだこと自体を後悔しているわけではありません。ただ、ぬめった苔の岩に対しては、サンダルのソールでは限界があると痛感しました。次に本気で沢に入るなら、フェルトソールの沢靴を用意すべきだったと反省しています。装備は、行く場所に合わせて選ばないといけませんね。
そして、山ヒル
撮影に集中していて、ふと足元を見たときでした。足が血だらけになっていて、一瞬、何が起きたのか分かりませんでした。よく見ると、サンダルと足の皮膚のあいだに、山ヒルが挟まって死んでいたんです。どうやら、挟まったヒルが私の血を吸っていて、そのまま潰れて死んでいたようでした。足を汚していたのは、その吸われた血です。山ヒルに血を吸われるのは人生で初めての経験で、正直ぞっとしました。
ヒルは吸っているあいだ痛みがないので、見るまでまったく気づけません。肌を出したサンダルで水辺を歩き回ったのが、そのまま原因になった形です。ここでも、装備が場所に合っていなかったことを思い知らされました。次に水場へ行くときは、足元の防御を本気で考えないといけません。渓谷の水中撮影は、涼しげな見た目とは裏腹に、なかなか体を張る撮影でした。
「撮ってみないと分からない」もどかしさ
肝心の水中撮影そのものも、簡単ではありませんでした。使ったのはTG-7の水中モード。ダイヤルを合わせて水に沈めれば、あとはカメラ任せで撮れるのは手軽です。ただ、その手軽さの裏返しで、ピントや構図をその場で細かく確認できません。水面にカメラを沈めて、手探りで角度を変えながらシャッターを切る。まさに「撮ってみないと写りが分からない」状態でした。
しかも水の中では足場が限られて、陸のように自由には動けません。狙った位置に立てても、そこで思い通りに構え直すのは案外難しい。だから、とにかく数を撮りました。同じような構図でも角度を少しずつ変えて、たくさん切る。あとで見返して、その中から「写っていた一枚」を拾い上げる。狙って撮るというより、下手な鉄砲を数で当てにいく撮り方です。
OM SYSTEM Tough TG-7 / 水中モード|手を水に沈めて撮影
たくさん撮った中で、これがいちばん気に入っています。じつは「水の中から水面を見上げたら、どんなふうに写るんだろう」と思って、カメラを少し上に向けて撮っていました。とはいえ、この反射は狙って出したというより、数を撃った中でたまたまうまく重なってくれた一枚です。水の中の透明感と、水面が鏡のように景色を映す反射が、思いがけずきれいに合わさってくれました。手を突っ込んで数を撃った甲斐がありました。
OM-1は、いつも通り手持ちで
水中はTG-7に任せて、地上の渓谷はいつものOM-1で撮りました。この日も三脚は使わず手持ちです。上のエメラルドの淵は40mmでF13まで絞って1.3秒。手持ちで1秒を超える露光でしたが、OM-1の手ぶれ補正はやはり強く、ぶれずに止まってくれました。改めて、この手ぶれ補正の頼もしさには感心します。
OM SYSTEM OM-1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
150mm|F2.8|1/100秒|ISO200
残った宿題——「主役をどうするか」
前編で、撮る前から抱えていた不安を書きました。「水の中はきれいだけど、主役がいない」という問題です。実際に撮ってみて、その不安はそのまま宿題として残りました。
水中のカットは、たしかにきれいです。でも、見る人の視線を集める中心がない。「透明できれいな水」で終わってしまって、そこから先の一枚に踏み込めない。次にもし水中撮影を続けるなら、水の中に何を主役として持ち込むか——ここを考えないと、同じ壁にまたぶつかる気がしています。
体は張ったし、冷たい水は気持ちよかったし、一枚は気に入ったものが撮れた。でも「これで自分の武器になる」と言い切るには、まだ足りない。レンタルで試してみて良かったのは、この「続けるなら何を解決すべきか」が具体的に見えたことです。まずは、それが今回の収穫でした。
次に試したいこと
撮り終えてから気づいたのですが、TG-7 の強みは「水中に潜らせる」ことだけではなさそうです。むしろ、普通のカメラでは濡れるのが怖くて踏み込めない場所に、平気で入っていけるのがこのカメラの本領なのだと思います。それを踏まえて、次に試したいことがいくつかあります。
- RAWで撮る:今回いちばんの反省がこれです。水中モード任せで撮っていたら、記録形式がJPEGのままでした。おかげで、あとからLightroomで色や明るさを追い込む余地がほとんどなく、撮って出しに近い状態。次は必ずRAWで残して、現像で仕上げられるようにします。
- 水面と空中の境目(ハーフ&ハーフ)や、水しぶきの至近距離:水の中と水の上を1枚に収めたり、いつもなら大事なレンズを濡らしたくなくて寄れない水際に踏み込んだり。「主役がいない」問題の答えも、案外このあたりにある気がしています。水中単体より、境目のほうが画面に物語が生まれそうです。
- 延長ポール(自撮り棒のようなもの):手が届かない深さや、低く水面すれすれの角度を狙えれば、構図の幅がぐっと広がりそうです。
- リストストラップ(手首固定):これは必須だと痛感しました。水流の激しい場所では、手が滑った瞬間にカメラをそのまま流されかねません。せっかくの一台を失う前に、次に行くときは必ず用意します。
「やってみて終わり」ではなく、次はこれらを持って、もう一度水に入ってみたい。そう思えたのが、今回いちばんの収穫だったのかもしれません。
この記事を書いた人
Photo.SeTa|OM SYSTEM OM-1で、九州を中心に風景・花・夜景を撮影。フォトマスター検定2級。PIXTA・Adobe Stockにてストックフォト350点以上を公開・販売中。作例の撮影設定を掲載する場合は、RAWデータから確認した実際の値を使用しています。運営者情報
読んでくれてありがとうございます。
静けさの風景写真が好きな方は、応援クリックしていただけるとうれしいです。